年下御曹司は初恋の君を離さない

 だが、友紀ちゃんとはオフィスで顔を合わせているだけではない。未だに彼は久保家に滞在しているのだ。
 もちろん、それは私を畠山さんから守るためである。
 わかっているからこそ、友紀ちゃんからのお願いを無視する訳にはいかない。

 しかし、四六時中一緒にいると、どうしても『好き』の二文字を言いたくなって仕方がなくなってしまうのだ。

 アラサーの私が〝乙女〟という言葉を使っていいのか疑問ではあるが、『恋する乙女』状態になっていることは間違いない。
 とっくの昔に諦めていたのに、まさか再び恋を経験するなんて思ってもいなかった。

 胸がキュンキュンしすぎて苦しいほど、だけどその痛みは幸せで涙が出てくる。
 すっかり恋をして浮かれている自分に苦笑してしまうが、それも仕方がないだろう。

 口紅を塗り直した私は、もう一度鏡に映る自分を見つめる。

 その後、畠山さんからのアクションは全くない。それがかえって不気味だ。
 畠山さんが私に危害を加えようとしているのは、友紀ちゃんの側にいて邪魔だから、そう藤司さんは言っていた。
 それなら今のこの状況を見て、畠山さんはどう思っているのだろう。
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