年下御曹司は初恋の君を離さない
(いやだ……いや。私……まだ、貴方に好きだって伝えていないのに)
失恋するのなら、彼への気持ちを告白してしまえばよかった。
友紀ちゃんからもう一度告白する、という言葉を鵜呑みにした私がバカだったのかもしれない。
彼が再び歩みを始め、私は慌てて彼の後を追いかける。
そして、ふとあることに気がついて落胆した。
私が彼の気持ちに応えようと告白したときに、どうして彼はそれを止めたのか。
それは、畠山さんとの婚約が決まりつつあったからだ。
あれだけ甘いキスをして、愛を囁いていた友紀ちゃんだが、私には『好き』という言葉さえも言わせなかった。
それは、私からの気持ちを知った上で捨てるつもりだったからなのだろう。
なんだか笑いたくなってきた。大声で笑って、何もかもが馬鹿馬鹿しいと叫びたかった。
だが、今は仕事の最中だ。私情を挟むべきではない。
こうして彼と仕事をするのは、最後になるかもしれない。それなら、最後までクールな秘書のままでいたい。それが私にとってのプライドだ。
顎を上げ、涙が零れ落ちてこないように歩く。ただ、彼の背中を見つめ、抱きつきたくなる衝動を抑えるのに必死だった。