年下御曹司は初恋の君を離さない
「未来さん。ほら、顔を上げて」
「……」
「君が顔を上げてくれないと、話ができないよ」
副社長は、いつも通りの優しげな口調だ。だが、私は顔を上げることができない。
嫌な予感ばかりが脳裏をかすめてしまい、ギュッと手を握りしめる。
だが、相手は上司だ。それも私の直属のボスでもある。
部下である私が、こんな態度をしていては褒められたものではないだろう。
意を決して顔を上げると、そこには困ったように眉を下げた副社長がいた。
「なんとなく、君に僕の気持ちが伝わってしまったかな?」
「……私の勘違いであればいいと願っています」
絞り出すように呟くと、副社長は口元を少しだけ歪めて笑った。
「たぶん、未来さんの予想は合っていると思うよ」
「副社長」
ギュッと唇を噛みしめて副社長を見つめると、彼はゆっくりと目を細めた。
「私の秘書は、仕事は完璧だからね。先を見据えて行動し、私の気持ちも汲んでくれる。本当に立派な秘書だ」
「仕事は、って……」
苦笑いを浮かべると、副社長は茶目っ気たっぷりに口角を上げた。