年下御曹司は初恋の君を離さない
「と、言うわけで。未来さん、しっかりと手綱を握っておいてね」
「副社長!!」
「ハハハ。もう僕は副社長じゃなくなるんだから、これからは名前で呼んでね」
「……すぐには無理です」
「無理でも変えなくちゃ。もう、今日から新副社長の秘書として動いてもらうからね」
有無を言わさないといった雰囲気に、私はグッと押し黙る。
すると、副社長———小華和隆二さんは、嬉しそうに目尻を下げた。
「うーん、これで小華和堂は安泰、安泰」
「副社……いえ、隆二さんとお呼びすればいいですか?」
小華和さんだと、会社にはゴロゴロと小華和さんがいる。
区別するためには、名前で呼んだ方が賢明だろう。
隆二さんにそう言うと、彼は目尻にたっぷり皺を寄せる。
「ははは、さすがは未来さんだね。きっちり直してくるところはさすが」
「からかわないでください」
「からかうつもりはないんだけどね」
そう言いながらも隆二さんの笑い声は止まらない。
無表情で彼を見つめると、さすがに私の視線に気がついたのか。コホンと咳払いをしたあと、彼は背筋を伸ばす。
そんな隆二さんの様子を見て、私も姿勢を正した。
「社会人としての未来さんも、そして女性としての未来さんにも……幸せになってもらいたいと思っているんだ」
「隆二さん?」
「本当だったら、うちの息子あたりと見合いでもさせたかったんだが」
「なっ!?」
目を丸くさせると、隆二さんは神妙な面持ちで肩をすくめる。
「うちの兄貴とその息子が、ダメだの一点張りでね」
「は、はぁ」
うちの兄貴というのは、小華和社長のことだ。そしてその息子というのは、新副社長になるべく人物である。