年下御曹司は初恋の君を離さない
我が社の重役も、外で会食などがないかぎり、当社の食堂を利用している。
もちろん、秘書部と同じように社員食堂までは行かず、最上階フロアで食べているのだ。
そんなふうにして、極力他部署の人間とは接することがないようにされている。
どんな形で情報が漏洩するかわからないからこその、対策の一つだ。
そんな会社の方針だが、秘書部以外にも同じように他部署の人間と接触しないようにと指導されている部署がある。
それが、この十階にある経営戦略部だ。
そんな経緯もあり、秘書部と経営戦略部の面々は顔を合わせたことがない。
と、言うか、秘書部も経営戦略部も同じ部の人間としか接触しないといった方がいいのかもしれない。
そんな鉄の掟があるため、秘書部のフロアも、この経営戦略部のフロアも他部署の人間が入ってくることはまずないだろう。
私だって、このフロアに足を踏み入れるのは初めてだ。
本当に大丈夫だろうか、と部長の背中を見つめるものの、彼はスタスタと私の心配を余所にフロアを闊歩していく。
一つの扉の前に立つと、部長は控えめにノックをする。
すると、中からの返事はないのに、部長は「失礼します」と言って入っていくではないか。