年下御曹司は初恋の君を離さない
この部屋の中が異様な雰囲気であることを肌で感じるからこそ、機密情報を処理している部屋であるように予測ができる。
そんなことを考えていると、静かな部屋に電話の着信音が鳴り響いた。
一人の社員が受話器に手を伸ばしたのだが、早口でまくし立てている。
驚いて声のする方を向いたが、こちらからは顔は見えない。
ただ、男性だということは声の質でわかった。
男性だということ、そして背中だけがディスプレイの明かりで確認できるだけだ。
英語じゃない……、ああ、ドイツ語だ。
かろうじて聞き取れた『ショコラーデ』という単語で、判断ができた。
チョコレートの話をしているのだから、海外の会社と取引をしているのだろうか。
だが、かなりエキサイトしているようで、口調が荒々しい。
ただ、残念かな。私はドイツ語がからっきしできない。
一応はできる英語だが、読み書きはなんとかできるものの、しゃべるとなると怪しい。
業務に支障がないぐらいにはできているつもりだが、発音がやっぱりネイティブとはかけ離れていると思う。
流暢なドイツ語を話す彼の後ろ姿に羨望の眼差しを送っていると、部長が私の肩をポンと叩いた。