年下御曹司は初恋の君を離さない
「まだ時間がかかりそうだから……行こうか」
「え? あ、はい」
部長はそれだけ言うと、再びこの部屋を出て行く。
私も慌てて部長の後を追い、部長と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
一体、あの部屋に行った理由はなんだったのだろうか。
エレベーターの扉が閉まり、部長は十二階へのボタンを押す。
ゆっくりと庫内が上昇していくのを感じながら、私は部長に疑問をぶつけた。
「部長。どうしてあの部屋に行ったのですか?」
「……」
「結局、誰にも声をかけなかったですし」
考えてみれば妙だ。
経営戦略部のフロアは、秘書部や重役がいる十二階フロアと同じ扱いで、他部署の人間は立ち入り禁止だったはず。
それは、秘書部に所属する私も立ち入ってはいけない場所だ。
そんな禁止区域なのに、部長は私をあのフロアにどうして連れて行ったのだろう。
そして、なにやら機密情報がゴロゴロしていそうな部屋に入ったのだろうか。
謎が謎を呼んでいく。部長の意図が全くわからない。
何も言わない部長に痺れをきらしていると、ちょうどエレベーターは十二階についたようだ。
静かに扉が開き、部長はそこから出ようとする。
私も慌ててその後に続くと、部長は私に背を向けたまま言う。