年下御曹司は初恋の君を離さない
「先ほど行った部屋は、我が社で最重要な機密情報を扱う部屋だ」
「……はい」
「それなのに、どうして久保さんを連れて行ったのか。不思議に思ったことだろう」
その通りだ。部長は私に背を向けたままだが、小さく頷く。
ちょうど秘書部のオフィス前に辿り着くと、ようやく部長は足を止めて私を振り返った。
「君だけは、あの場所に行ってもいい」
「は、はぁ……?」
意味がわからない。
小首を傾げる私に、部長はフフッと意味深に笑った。
「あそこにある情報は、今後君も管理することになるからだ」
「そ、それはどういう意味ですか?」
部長を見上げると、彼は目尻を下げる。
「先ほど、ドイツ語で商談していた彼だが」
「ああ、はい」
確かにいた。後ろ姿しか確認はできなかったが、流暢なドイツ語で話していた男性。
ドイツ語はからきしダメだし、なにより早口でまくし立てていたから何を言っているのかさっぱり理解できなかったが。
コクコクと頷くと、部長はとんでもないことをサラリと言い出した。