年下御曹司は初恋の君を離さない
「どうぞ、お入りください」
柔らかくて甘く低い声が聞こえた。きっと、新副社長である小華和友紀さんだろう。
先ほど荒い口調でドイツ語を話していた人と同一人物とは思えないほど、穏やかな声にまずはビックリする。
緊張しつつ扉を開くと、こちらに背を向けたまま深く椅子に座っている男性が見えた。
私が部屋に入ってきたことがわかったのだろう。
その男性は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
先ほど経営戦略部のオフィスで見かけたときは暗くて視界が悪かったし、椅子に座ったままだったのでわからなかったが、とても身長が高い。
今、私は三センチヒールを履いているので、百七十センチを越えたぐらいだろうか。
それに対し、副社長は確実に私より十センチは身長が高いように思える。
ハイヒールを履いた状態の私が隣りに並んだとしても、身長差があるだろう。
そういう男性は、いそうでなかなかいない現実。だからこそ、まずはそこに驚いた。
スラリとした容姿、その男らしい身体にピッタリ合っているスーツはオーダーメイドのものだろうか。
ゆっくりと振り向いた副社長は、私を見て小さくほほ笑んだ。
(え……?)
どこかで会ったことがあっただろうか。
既視感を覚えて、私は目を見開いてしまう。
その笑みはどこかで見たことがあるはずだ。私は必死に記憶をたぐり寄せるが、あと一歩というところで思い出と繋がらない。
いや、繋がるのを拒否しているようにも思えた。
だって、私が思い出した笑顔は……可愛らしい女子高生、友紀ちゃんの笑顔だったからだ。
焦る気持ちを抑えながら、再び目の前にいる男性を見つめる。