年下御曹司は初恋の君を離さない
「あの、副社長?」
戸惑いつつ声をかけたのだが、返事がない。
どうしたのかと焦っていると、ようやく目の前のキレイな男性は口を開いた。
だが、言葉は発さず盛大にため息をついたのだ。
目を丸くして驚いている私に、副社長は口元に笑みを浮かべた。
キレイな顔の副社長がほほ笑むと迫力がある。
だが、目が笑っておらず、私は背筋をピンと伸ばして姿勢を正す。
「まず、一つお願いがあります」
「は、はい」
初っ端からダメだしをされてしまうのか。心の中でガックリと項垂れながらも、それを隠す。
すると、副社長は一歩踏み出してより私に近づいてくる。
顔を覗き込むように身体をより近づけてきて、さすがにビックリしてしまった。
ビックリしすぎて身体が動いてくれない。
それどころか、彼の長い睫が至近距離で見えて「長くて……キレイ」なんて今は関係ないことを思ってしまう。
すると、その睫に隠されていた瞳が私を射貫くように見つめてきた。
その視線を感じ、胸の鼓動がうるさいぐらいに高鳴り始める。
彼のオーラに捕らわれていると、副社長の薄い唇が動き出す。
「副社長はやめてください」
「え?」
どういう意味かと視線で問えば、副社長は真摯な口調で返してきた。
「ですから、副社長と呼ぶのは止めてください」
「と、言われましても……」
この会社、小華和堂の上層部は血縁関係で成り立っており、どこもかしこも小華和さんだらけだ。
そのため、暗黙の了解で役職名で呼ぶようにしている。
そうしないと、誰に声をかけているのか。誰のことを言っているのか。
周りが把握できないし、本人たちも混乱してしまうためである。
ただ、例外として取引先会社の担当者などに言うときだけは、フルネームで呼ぶようにしているのだ。
相手会社の人たちも小華和堂のそういった内情を知っているため、フルネームで言う理由も把握してくださっている。