年下御曹司は初恋の君を離さない
だが、副社長が役職で呼んでほしくないと言うのであれば、仕方がないだろう。
私は心得ました、と小さく目で会釈したあとに口を開く。
「では、小華和さんでいかがですか?」
他の重役や秘書部の人間に、副社長だけは役職で呼ばず、名字呼びにすると徹底すれば大丈夫だろう。
そんなことを頭の中で考え、この後にでも早速秘書部長に話しておこうなんて思っていると、目の前のキレイな顔が渋顔を作る。
「違います」
「え?」
「どうしてそんな他人行儀なんですか?」
「た、他人行儀と言われましても……」
この発言には目を丸くさせてしまう。
パチパチと目を瞬きさせていると、彼はより私に顔を近づけてきた。
キスでもされてしまうかと思うほど近い距離に、私は飛び退いてしまう。
口元を戦慄かせていると、彼はフッと小さく笑った。
「友紀と呼んでください」
「え? ああ、お名前でお呼びすればいいのですね」
小華和さんが重役にたくさんいる中、彼だけ名字呼びもどうかと思っていたので、その提案に賛同した。
小さく頷いたあと、私は秘書の顔で彼の名前を呼ぶ。
「では、友紀さんとお呼びさせていただきますね」
「……」
「えっと、友紀さん?」
名前で呼んでいるのだから、異議はないはずだ。
それなのに、目の前の友紀さんからは不機嫌なオーラを感じる。
さてはて、これには困ってしまう。
どうやら扱いにくい人が副社長になってしまったようだ。
そこでようやく前副社長である隆二さんの言葉を思い出す。