年下御曹司は初恋の君を離さない
『一筋縄ではいかないんだ』
そんなことを言っていたはずだ。
隆二さんの言っていた通り。これはなかなか……苦労させられそうだ。
だが、そんなことを口に出して言えるはずもなければ、顔に出すわけにもいかない。
心中で戸惑いながら、私は目の前にいる友紀さんにほほ笑みかける。
「どうされましたか、友紀さん?」
「……」
返事がない。これには困ったが、名前呼びに関してはこれ以上触れることは止めておいた方がよさそうだ。
とにかく今は挨拶を済ませて、退室してしまおう。
そのあとに秘書部長と要相談だ。新副社長はなかなかに手こずりそうな予感がしました、そう正直に言ってしまってもいいものだろうか。
早々に退室しようかと友紀さんに声をかけようとしたが、彼はクスクスと声を出して笑い出したのだ。
先ほどまでは仏頂面で眉間に皺を寄せ、不機嫌な様子を隠しもしなかった友紀さんがいきなり笑いだしたので、さすがに驚いた。
目を白黒させる私を見て、ますます笑い声が大きくなっていく。
ムッとしたが、目の前で笑っている彼はなんだか年相応といった感じで可愛らしい。
最初こそ近寄りがたい雰囲気だったのだが、今の彼は年下の男の子といった感じだ。
そこで思い出す。そうだ、彼は私より年下だ。
見た目が大人っぽいので、本当の年齢のことを忘れていた。
未だに笑ったままの彼を呆れながら見つめている私を見て、彼は急に笑いを止める。
「何を他人行儀しているんですか? と先ほどから言っているのにね」
「は……?」
彼が何を言っているのかわからず、私は思わず素の自分が出てしまった。
他人行儀もなにも……今日、初めて会う人にそんなことを言われても困ってしまう。
今、自分は秘書としてこの場にいる。それもこれから自分のボスとなる副社長の目の前にいて、初顔合わせ中である。
それなのに、そんな気の抜けた返事はないだろう。秘書として失格だ。
慌てて口を押さえて目を泳がせると、彼は再び私に近づいてきた。
そして、私の肩に手を置いたのだ。今日一番の驚きだった。