年下御曹司は初恋の君を離さない
もう、友紀ちゃんに対してどんなふうに接していいものか。わからなくなってきた。
そもそも、〝友紀ちゃん〟なんて呼んではいけないのかもしれない。
しかし、役職で呼ぶな。名字では呼べない。となれば、名前で呼ぶしかない。
なのに、〝友紀さん〟と呼んだ途端、他人行儀はイヤだと面白くなさそうに顔を顰めた彼。
どれが正解で、どれが不正解なのだろう。
全くもって訳がわからない。
掴んでいた私の顎を離した友紀ちゃんは、真摯な瞳で見つめてくる。
「簡潔に言うと……。まずは、八年前。俺が高校二年生、未来さんが大学二年生のとき。俺を痴漢から助けてくれましたよね?」
その通りである。
コクコクと何度も頷くと、彼も私の反応を見て小さく頷いた。
「さっさと種明かししてしまうと、あの時点で俺は未来さんが女性だと気がついていました」
「う、嘘でしょ! 完璧に男だったはず」
「いいえ、俺の目にはキレイで魅力的な女性に映っていましたよ」
友紀ちゃんは、あの頃を思い出しているのだろう。懐かしそうに目を細めた。
「だからこそ、日本を離れる前に貴女に告白したんです。本当はもっと貴女の傍にいたかったけど、母親が仕事の関係で海外にいくことになったので、俺も付いていかなければならなかったから」
「……それで突然だったのね」
小さく呟くと、彼は苦笑いを浮かべる。
さすがにあのときは母を恨みがましく思いましたけどね、と友紀ちゃんは肩をすくめた。
だが、すぐに意味ありげにほほ笑んで頬を緩めた。
「だから、急にお別れを言わなければならなかったんです。本当は徐々に未来さんにアプローチをかけていく予定だったのに、すべて水の泡です」
「えっと?」
「未来さん、俺のこと女だと思って油断していましたからね。これ幸いと、女だと偽って俺と一緒にいることに慣れさせることにしました。あの頃の未来さんは男性不信だったでしょう? だからこそ、男装をしていた。違いますか?」
「……」
その通りだ。あの頃、電車に乗れば痴漢ばかりされ、見知らぬ男に後を付けられるなんてことは日常茶飯事だった。
だからこそ、男性なんて大嫌いだと思っていたのだ。