年下御曹司は初恋の君を離さない
男装することによって痴漢されることはなくなったが、心の傷は思っていたより深かったらしい。
当初、なかなか男性の近くに寄ることができなくなっていた。
だからこそ、未だに男性とお付き合いができないということに繋がってくるわけなのだけど。
ただ、モテないだけとも言うけどね。
私が苦笑していると、友紀ちゃんは腹黒い表情で口角を上げた。
「すっかり俺に未来さんはガードを緩めていましたからね。これから一気にと思っていた矢先に、留学ですから。本当残念でした」
なんだか言いようのないあくどさを感じるのだが……気のせいだろうか。
私は気を取り直して、彼に疑問をぶつける。
「友紀ちゃんの名字は永妻だったよね? それなのに、どうしてここにいるの?」
新副社長は、社長の息子だと聞いている。
社長の名字は小華和だ。それなのに、彼は永妻のはずである。
首を傾げていると、彼は小さく笑った。
「ああ。俺が高校二年になりたての頃、両親が離婚したんです。だから、未来さんに初めて会った頃は永妻だったんですけど。そのあと、すぐに復縁したんですよ、うちの両親」
「え?」
「うちの父は、本当に母一筋で。でも、外野が色々うるさくしたみたいで母が参ってしまったんですよね。で、逃げるように父と距離を取ったんです。父も母の気持ちがわかっていたからこそ、一度は別れを覚悟したらしいんですけど……やっぱり母のことが忘れられなかったらしくて強引に復縁を迫ったと聞いています。母にしてみたら、とっ捕まってしまったって感じです」
苦笑いを浮かべる友紀ちゃんを見て、彼の姓について納得して頷く。
そんな私に、友紀ちゃんは色々な種明かしをしていく。
「あの頃、未来さんには少しの間だけ俺のことを女だと思い込んでもらう必要があった。だから、通っている高校も女子校の名前を出したんです」
「そ、そうよ! 私、友紀ちゃんの連絡先を知りたくて女子校に行って聞き込みをしたのよ」
だが、友紀ちゃんのことは誰も知らなかった。
当たり前だ。だって彼は女の子じゃなくて男の子で、女子校には通っていなかったのだから。
彼は別の高校に通っていたということなのだろう。
口を尖らせる私に、友紀ちゃんは「スミマセン」と言って苦笑した。
そんな彼に、私は抗議する。