年下御曹司は初恋の君を離さない
友紀ちゃんにキスをされている。それも私にとってはファーストキスだ。
何度も啄まれ、角度も変えてくる。
唇だけでは物足りないようで、もっともっととキスを深めてくる。
頭が真っ白になった頃、ようやく友紀ちゃんが私を解放してくれた。
「好きです、未来さん」
「友紀ちゃん」
「覚悟しておいてくださいね? 俺は諦めが悪いですから」
「っ!」
「まぁ、言わなくてもわかってくれていますよね? なんて言ったって八年。ずっと未来さん一筋ですから」
フフッと軽やかに笑う友紀ちゃんが今は憎い。
私たちは、これから副社長と専属秘書として働くことが決まっているのだ。
それは、毎日顔を見合わせるということである。
となれば、どうしたって毎日心を揺さぶられることに違いないのだから。
とんでもない!!
絶句している私に、友紀ちゃんは妖艶な笑みを浮かべて言う。
「まだ、秘密はたくさん残っていますけど。種明かしは追々ね」
「っ!」
薄い唇から赤い舌が覗いた。
そして、私と触れあった唇をゆっくりと舐める。
その仕草が色っぽくて、だけど厭らしくて。胸の鼓動がこれでもかと速くなっていく。
「し、失礼いたします!」
ようやく我に返った私は、慌てて頭を下げると副社長室を飛び出した。
最後だけとはいえ、とりあえず秘書の顔で部屋を出ることができた。
だが、もう……とっくの昔に秘書の顔など剥がれ落ちてしまっていることに今更ながらに気がついてしまう。
そのことに慌てた私は、すぐさまトイレに駆け込んで鏡を見つめる。
そこには唇を腫れぼったくし、顔を真っ赤に染めている私が映っていた。
「嘘だよね。友紀ちゃんが副社長で、まだ私のこと……好きなんて」
自分に言い聞かせるように呟いたが、唇に未だに残る友紀ちゃんの熱を感じて、先ほどまでの出来事は嘘ではないと証明するかのようだ。
私は、ソッとため息をついて項垂れたのだった。