失礼ですが、強い女はお嫌いですか?
リリエラの正式名称はリリエラ・マホーン。
エデリのあるクリント伯爵領は六年前までマホーン伯爵領地だった。つまり、リリエラの父、ゼルクスの治める領地だったのである。
マホーン領だった頃は、エデリの町も今より栄えていた。
『女神の涙』は採れていたし、ゼルクスは温厚で争い事を好まない性格のせいか、政に深く関わりを持つことをせず、舞踏会などの社交シーズン以外は王都に寄り付かない。
領地に長くいることで、問題があれば速やかに解決へと行動し、貴族としては珍しいくらいに領民との距離も近かった。
王都ではゼルクスに対して貴族の誇りを持っていないと否定的な人間もいたようだが、領民に慕われていた父をリリエラは誇りに思っていた。
母のミランダも同様だ。ミランダは貴族令嬢としては珍しい女騎士であった。しなやかな剣術はもちろんだが、体術も優れていて、その美貌と共に騎士団でも一目置かれていたようである。
そのため、ミランダの料理の味が良いのは、幼い頃から食べている上手い料理で舌が肥えているからで、調理方法が大雑把なのは、夜営などでの調理くらいしか経験がないからだろう。
余談ではあるが、包丁の使い方だけは素晴らしい。
リリエラは幼い頃からミランダに体術や剣術を習ってきた。理由は様々だが、リリエラは母のような強い女性に憧れていたし、誘拐などから身を守るためにも良かったからだ。もちろんジョナスも同様である。
ただ、一番は単純に興味が沸いたからだろう。
あまりにも熱心なため、一度両親に止められたが、勉強を条件に教えを乞い続けた。両親は見本であり、師匠でもあるの。
温かく見守られながらすくすくと成長したリリエラ。
まさに貴族として順風満帆を絵に書いたような生活を送っていた。
ーーあの事件が起こるまでは。