失礼ですが、強い女はお嫌いですか?
「そう言えば、ゼン。サムのことをお聞きになった?」
ゼンとはゼルクスの愛称だ。
ミランダに話しかけられたゼルクスはスープを掬う手を止め、ミランダへ視線を向けた。その表情は悲しげだ。
「あぁ、今朝聞いた。サムが行方不明になっているそうだな」
「これで六人目よ。まだ犯人の手がかりが見つかっていなくて、同じ事件かもはっきりとはわからないとか……ゼンも気を付けてくださいな」
サムはゼルクスと同じ加工職人として働いていた男だ。
ミランダの話す事件とは、数ヶ月前から、次々と加工職人ばかりが行方をくらましている出来事のことである。ゼルクスも同じ職業なので、ミランダは気が気じゃなかった。
「もしよろしければ、私が護衛をいたしますわ」
「そんな危険なことを許すわけがないだろう」
「でもーー」
「大丈夫だ。私もミランダほどではないが、嗜み程度には体術や剣術を心得ている。これでも元貴族だからな。ははははーー」
笑い事ではない気もするが、家長であるゼルクスが決めたことに反論できるはずもなく、ミランダは渋々受け入れる。
食事を再開した二人を横目にリリエラは表情を曇らせた。
マホーン領であった頃から犯罪がなかったわけではないが、ここ数年で確実に治安は悪くなっている気がする。
もし自分達が領主を引いたことと関係するとしたら、と考えただけでも形容しがたい複雑な気持ちになってしかたがなかった。
リリエラはこの領地の民が好きだ。
こそこそと以前の身分を隠し、生活している今でも、できることがあるならば手を貸したいと思うくらいに。
リリエラは食事のペースを少し上げる。
「今日もアイリス達に会ってくるわ」
「あまり遅くならないようにね」
「わかってます」
だから今日もリリエラは『相談屋』として夜のと張りに消えていく。