失礼ですが、強い女はお嫌いですか?

男の体勢が一瞬崩れる。それはほんの僅か。けれど、リリエラにとっては大きな変化だった。

一気に足へと力をためたリリエラは、踏み込むと同時に男の背後へ回り込むと、勢いのまま膝裏へと蹴りこむ。ガクンと膝をついた男の背にもう一度蹴りをいれ、倒れた男の手を力一杯捻りあげた。


「女だってやられるばかりじゃないのよ」


リリエラは相手に言い聞かせるように、落ち着いた声色で呟いた。

弱いと決めつけているから揚げ足をとられるのだ。

力だけならば女のリリエラが男に敵うはずがないだろう。
しかし、弱点があるからこそ、そこをどう克服するか、どう対応するかが重要なのだ。
勝利したかどうかは、内容ではなく結果がすべてである。

ちなみに、これらすべてはリリエラに体術を教えた元騎士である母が言っていたことだ。



うめき声をあげる男を横目に、リリエラはすぐさま周りで様子を見守っていた人々に声をかける。


「すみませんが、お手伝い頂けますか?」


リリエラの声かけに答えるように数人の男性が金髪男の押さえ込みを手伝ってくれた。
そこでやっとリリエラは立ち上がる。一仕事を終えた、そんな空気すら漂いつつあった。

間を開けぬうちに自警団がやって来て、金髪男は連行されていく。
財布を盗まれそうになった女性も被害届を出すため、自警団と共に詰所へと向かう。その際、何度も感謝の言葉をリリエラに伝えてきた。

そして、リリエラはというと、周りで見ていた人達の証言もあり、事情聴取を受けるも、すぐに解放された。
余談だが、自警団に所属する弟に呆れを含んだ眼差しを向けられ、若干反省もしている。

人探しのはずが、とんだ事件を拾い上げてしまったな、とリリエラは苦笑いを浮かべた。
合流時間はとっくに過ぎていて、アイリス達も待ちくたびれているはずだ。急がねば、とリリエラが自警団の詰所を早足で出た時、突然リリエラの前に何かが立ちふさがった。


「ちょっとよろしいですか?」


頭上から降ってきたその声は、リリエラの警戒心を一瞬緩めさせるほどの穏やかで甘いものだった。

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