失礼ですが、強い女はお嫌いですか?
第一章 第二の人生始めました

元伯爵令嬢の今


「いらっしゃい。どうぞお好きな席にかけてください」


そう言って出迎えてくれたのは、カウンター内に立つ極上の笑みを浮かべた美しい女性。

緩く巻かれた長い銀色の髪は彼女の美しさを、空色の大きな瞳は彼女の聡明さを、ぷっくりとした赤い唇とその横にある黒子は彼女の妖艶さを引き立てる。

彼女はこの店の店長であり、唯一の店員。

四人掛けのテーブルが四つにカウンター席が八席。お世辞にも広いとは言えないが、趣味のよい間接照明やインテリアが店内の雰囲気を作り上げ、豊富な種類の酒が置いてあることも相まって、恋人達や酒好きにとても人気のある店だ。
もちろん彼女目当ての客も多いが。


ーーカランカラン


来客を知らせるベルがなり、一組の男女が入店してくる。
そのままカウンター席に座った彼らは、仲睦まじげに肩を寄せ、顔を近づけ話し出した。慣れたように男が二人分の酒を注文する。

酒が来るまでの間も、二人は楽しそうに言葉を交わし、女は男の手に指を絡め、男は女の髪を触り、人目を気にすることなく二人の世界に浸っている。

何とも微笑ましく、羨ましい光景。
人様に迷惑さえかけなければ、酒を飲む席でのことは他の客も目くじらをたてることもないだろう。

そう、迷惑さえかけなければ……
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