失礼ですが、強い女はお嫌いですか?
見 上げた先にいた人物の顔を視界に入れたリリエラの最初の感想は、男だろうか、女だろうか、である。
何故なら、男にしては身長がそれほど高くなく、体格も細めで、何よりも顔立ちが可愛らしいからだ。
焦げ茶色の髪で顔の半分は見えづらいが、下から覗いているリリエラにはちゃんと見えている。
長い睫毛に縁取られた二重でぱっちりとした髪色と同じ瞳、小さな鼻に、柔らかそうな唇。肌もきめ細かく、素直に羨ましいなと思う。
「どちら様でしょうか?」
とはいえ、リリエラも警戒しないわけにはいかない。そもそも、目の前に現れるまでこの人物の気配をまるで感じなかった。
事情聴取から解放されて気が抜けていたとしても、直前まで気づかないなんて、母にバレたら叱責ものだ。
リリエラは不快感を抱かれない程度に相手を観察する。
「ここではなんですので、少し場所を移しませんか?」
確かに詰所の前では邪魔だろう、と相手に従うことにしたリリエラは、小さく頷く。その反応を見て、男は道の脇へとリリエラを誘導し始めた。
声の高さ的に考えると、男だろうと判断したリリエラは、記憶の中の知り合いをしらみ潰しにあたっていくが、全く覚えがない。
初対面かと結論をつけようとしたその時、立ち止まった相手の口から思わぬ言葉を聞いて、一気に警戒を強めた。