失礼ですが、強い女はお嫌いですか?
「リリエラ・マホーン様ですよね?」
それは貴族でなくなった日から封印されたリリエラの正式名。
当然、この町にその名を知るものはいない。
つまり、貴族時代のリリエラを知る人物というわけだ。
リリエラの表情が険しくなったことで相手は肯定だと判断したらしい。「やはりそうでしたか」と納得している男の笑みが全く崩れず、それがとても恐ろしく思えた。
「……貴方は何者? 何が目的?」
リリエラは臨戦態勢に入り、男を睨み付ける。
リリエラ達家族がここにいることは、決して誰にも知られてはいけない。
それは、領民のためであり、苦渋の決断をした両親のためでもあった。
そんなリリエラの心情など知らないだろう男の纏う空気は、非常に軽い。
「そんなに警戒しなくても大丈夫なんですけどね。でも、見つけられて良かった。まさかこんなところで出会えるなんて……。僕はケイトと言います。またすぐにお会いできると思いますよ」
「え?」
「あぁ、でも、あまり危険なことはしないでくださいね。きっと心配しますから。あっ、そろそろ行かないと。では、僕はこれで失礼します」
そう言って風のように去っていったケイトという男。
リリエラは唖然としてしまい、問いただす以前に引き留めることもできなかった。
「また会えるって……どういうこと?」
この先の未来で起こることが想像できず、リリエラは表情を曇らせた。