失礼ですが、強い女はお嫌いですか?

ーーガランガランガンッ


突然店内に鳴り響いた激しいベルの音。

何事かと驚いた様子で入り口を見たのはカウンター席にいる男女だけだった。真っ先に反応したのはカウンター席に座る男の方。


「な、え……ど、どうし、て、ここ……に……」


驚きの表情のまま血の気が引いていく男の紡ぎ出した声は震えていた。


「どうして? 最初の言葉がそれなの?」


入ってきた客である女の声は、男とは正反対の落ち着きがあり、まるで怒りを押さえつけているかのように酷く冷たい。

つかつかと早足で男に歩み寄った女は、隣に座る女には目もくれず、男の前に立つと、何かを男の胸元に押し付けた。咄嗟に手で受け止めた男の顔は間抜けなほどに呆気にとられている。


「それ返すわ。手続きは全てこちらで済ませておきます。さようなら、好きに生きて」

「は? ……え、ちょっと待って! チェイシー! チェイシー!」


手の中の物を確認した瞬間、慌てて立ち上り店から立ち去っていく女の名前を叫んだ男。けれど、決意を固めた彼女に男の声が届くはずもなく、女は振り返ることもないまま店を後にする。

ただ一瞬、店内に向けて会釈をしていたけれど、放心状態の男は気づいていないだろう。
< 3 / 46 >

この作品をシェア

pagetop