失礼ですが、強い女はお嫌いですか?
リリエラは近くにあったベンチに腰を下ろした。
ぐっと勢いよく水筒をあおれば、冷たい液体が流れ入り、体の芯が冷えていく。
こんなこと、令嬢の時にはできなかった。はしたない、と思っていたかもしれない。
でも、案外やってみると心地いい。欲するものを欲するままに……誰に咎められることもなく、思うがままにやれる。
自分の感情を抑え、求められる姿を演じる貴族とは大違い。平民としての生活がリリエラに新たな価値観を生み出していく。
しかし、リリエラはふっと昔を思い出した。
外面がよくてなんぼの貴族社会。リリエラは例に漏れず、外ではお淑やかにしていた。
だが、実際は、女だというのに剣術や武術を好んで習得するような人間である。お転婆と言えば聞こえはいいが、令嬢としてはいただけない。
その姿を知るのは家族や使用人だけだ。正確には、それ以外には知られてはいけなかった。
だけど、それ以外に一人だけ、そんなリリエラを受け入れてくれる人がいた。
週に一、二度、周りから身を隠すようにして屋敷に来ていた少年だ。
彼の父親とリリエラの母が、学生時代からの友人ということで、頻繁に来ていた。