失礼ですが、強い女はお嫌いですか?
「よかった。笑ってくれて」
足に肘をつき、その手に顔を乗せると、男はふわりと優しい微笑みを浮かべ、リリエラの顔を覗きこんだ。
さすがのリリエラも自然と頬が染まる。
数々の修羅場を乗り越えてきた元貴族令嬢とはいえ、リリエラも年頃の女の子だ。
甘い視線への免疫はアイリスよりも断然少ない。いや、比べる相手が悪すぎるか。
「あれ、そのネックレス……」
「え?」
「いや、そのネックレスが素敵だなと思って」
今気づきましたと言わんばかりに男は目線を首元に向けた。
リリエラはネックレスを、特に捨て石が強調されるように手のひらで掬い、男に見せた。
「ありがとう。これ、女神の涙の捨て石でできているの。そんなに高くはないけれど、独り立ちするときに両親がプレゼントしてくれて」
「独り立ち?」
「ええ。仕事を始めて、親元を離れたから」
「そうなんだ。少し寂しいね」
なんてことはない世間話。心を開き始めた女性が漏らした些細な情報。
けれど、それは時に大きな情報となりえる。
リリエラはチラリと男を盗み見た。
女性の心情に共感し、心配げな雰囲気を醸し出しつつも、目はネックレスから離れない。リリエラはすーっと目を細める。
「寂しい時もあるけれど、そんなときはネックレスを見て気持ちを奮い立たせるわ」
「大切な宝物だね。失くさないようにするんだよ?」
「大丈夫よ! 寝る前には必ず外して、机の上の宝箱にしまってるもの」
「へぇー、それなら安心だ」
この男は今、何を考えながらリリエラの話を聞いているのか。
まぁ、どうでもいいか、とリリエラは心の中で悪態をつく。本当に心配しているにしろ、警戒心が薄い、簡単そう、そんな風に思われたらリリエラにとっては大成功である。
男はその後も話しかけてくる。なので、リリエラはそのまま男との会話を楽しんだ。