翼の折れた鳥たちは
「ねぇ、葵ちゃん?いつか俺の前で歌ってよ。屋上まで聞きに行くから。だから、歌うこと辞めないで」


敦也くんと視線が交わる。

だけど敦也くんの姿が涙でぼやけて見えた。

歌手を諦める。

理学療法士の道を進むって決めた時からずっと、そう言い聞かせていたはずなのに、何かが変わろうとしている気がする。


返事をしかねている私を見かねたように、敦也くんは表情を和らげる。


「なぁんて、葵ちゃんの人生だから俺がそんなこと言う資格ないんだけどね」

ははは……

冗談とも本気とも分からない口調の敦也くんの笑い声がリハビリ室に響いたのだった。
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