翼の折れた鳥たちは
「よろしくお願いしますね」

榎田さんの独特の雰囲気に戸惑いながらも、私はにっこりと笑顔を作った。


時間が止まっているような感覚に襲われる。

だって、私の言葉に反応がない。

「えっと、星原です。よろしくお願いしますね」

聞こえなかったのかもしれない。

そんなはずないのに、そう思うことにした。


だけど、返事をすることもなければ、表情ひとつ、榎田さんが変化させることなんてなかった。


「あっ、明日からリハビリ頑張りましょうね」

その場に居辛くなってしまった私は、足早に病室を後にしたのだった。


301号室が良いって理由、分かったでしょ?

逃げ帰るようにして病室を出てきた私を、そんなこと言いたげな表情を浮かべた看護師長がにっこりと笑った。

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