翼の折れた鳥たちは

「星原さん、最近屋上で歌わないの?」


突然、部長に尋ねられて言葉に詰まった。


敦也くんが退院したあの日の朝から、私は屋上で歌っていない。

それどころか、屋上へ足を踏み入れてはいない。

唄えなくなったわけじゃない。

何となく屋上へ行くことが出来ずに、歌うことを避けている。


『歌うことを辞めないで』 

退院するとき、敦也くんに言われた言葉がもう何度も頭の中で繰り返されている。


屋上で唄ったら、きっと私の気持ちは変わってしまう。

誰かのために歌いたいって、やっぱり歌手を諦めきれないってきっとそう思ってしまうに違いない。

それが怖かった。


「仕事が充実しているので。屋上に行く暇なんて……」

そんなの、私の精一杯の強がり。

私の言葉に、部長が困った表情を浮かべてる。

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