微笑む女『短編』
微笑む女
情事の余韻も残さず帰り仕度をしている男に、女は言った。
『もう、帰るの?』
『ああ。娘が一人で家にいるからな。』
ネクタイを絞めながら、男は答える。
『妻が死んでから…いや、最近、少し娘の様子がおかしくてな…。』
そうなの、と答えた後に、女は遠慮がちに言う。
『帰らないで…。朝まで一緒にいてよ。一人は…辛いの。』
二年越しの若い恋人の言葉に男は微笑んで言う。
『娘を一人には出来ないよ。』
・