混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
「私は、あなたに……」

 言いにくそうに肩を震わせて戦慄きながらガブリエルが言った。

「眠っている、あなたに……、……を」

「すみません、今、波の音で聞こえなかったんですが」

 イライザが聞き返すと、ガブリエルが声を張り上げた。

「あなたにっ、口付けしましたッ!!!」

 ざっぷーーーーーーーん。

 と、もう一度波の音がした。

「……え?」

 イライザが思わず聞き返すと、ガブリエルは赤面したままだった。

「それだけ、ですか?」

「それだけ、とは?」

「え、だって、責任とるって……」

「はい、ですから、責任をとります」

「いやいやいやいや」

 イライザは、何と言って良いのかわからなかった。あわてて、唇を指でなぞると、ガブリエルは、あの夜を思い出したように、息を飲んだ。

「そこまで、重く考えなくとも」

 イライザが言うと、

「ですが!」

 と、ガブリエルが顔をあげる。

 あわあわとうまく言葉にならないガブリエルを見かねて、イライザの方からガブリエルの唇に自分の唇を重ねた。

「!」

 それは、触れるだけの、優しく、やわらかなものだった。

「え……、と、こんな感じですか?」

 確かめるようにイライザが言うと、ガブリエルはイライザの両腕を掴み、今度はガブリエルの方からイライザに唇を重ねた。

 それは、イライザがガブリエルにしたものとは全く異なっていた。

 唇をはむように、柔らかさを確かめて、いたガブリエルだったが、唇の感触に思わず口をゆるめたイライザの口腔に舌を這い入れ、追いかけるようにイライザの舌を絡めとり、その熱さを確かめるようにゆるゆると混ざり合うようにして求め合った。

 身体の力が抜けそうになるイライザの背中に腕を回し、しっかりと抱きとめて、ゆるやかに互いの唇を名残惜しそうに離すと、もう、太陽は水平線の彼方へ姿を消していた。

「……こんな、感じです」

 すでに身の内に宿った炎は簡単に消せそうにないほど、ガブリエルがイライザを求めているのがわかった。

「それは……あの、困りましたね」

 他人事のようにイライザが顔を赤らめながら言うと、ガブリエルも、

「はい……」

 と、申し訳なさそうに言った。
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