混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 一人で船で旅をする事を恐れてはいない。覚悟もあった。しかし、やはり幼なじみであり、従兄弟のアレンが同行してくれるならば、不安はいっそう少なくなる。

 もちろん、当初の予定通り、ガブリエルの醜聞の仕込みとしても、ではある。

 妹のようなイライザから心強いと言われて、アレンの方も揺れていた。『青い不死鳥号』に乗ってみたい気持ちもある。

 イライザが、どことなく何かを企んでいるような不安も、アレンは長年の勘で感じ取ってはいたが、少々の企みなどはアレンにとってはむしろ想定の範囲内の事。

「……わかった、けど、ヘンリーに、社長には何て言って許可をもらうんだ」

「もちろん、婚約者候補のイザード氏からの招待だから、って事にするつもり」

「ええっ、それで僕が同行するのは少し不自然では無い?」

「そこはほら、お父様だって、何だかんだ私を一人で行かせるのは不安でしょうし、私自身が一人では、と、言えば、許可はいただけると思うのよ」

「独身の男性が同行って、さすがに不審じゃないかなあ……」

「イザード氏からの許可はあるもの」

「それって、イライザに女装した僕でって事でしょう? すさまじいまでの二枚舌だ、記者ってそこまでするんだね……」

 あきれたような、あきらめたような様子でアレンはため息をついた。

 つまり、父、ヘンリーに対しては、婚約者からの招待に応じて、アレンを同行させるという体にし、当のガブリエルに対しては、当初から乗船予定だったイザベラ・クリフトンと、その友人、イライザ・アトキンソンの二人の女性として乗船する、という事だ。

 こうする事で、イライザは、父、ヘンリーの監視下から抜け出す事が可能になった。

 一番割りを食うところがアレンで、アレンがイライザの頼みに弱いところまで利用した、完璧な作戦だ。

「……キャビンでは女装する必要は無いんだよね、あの、コルセットで何日も過ごしたら体型が変わりそうだよ……」

 すでにあきらめ気味のアレンは覚悟を決めた様子だ。
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