混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
「イザードさんは、イライザと結婚話がもちあがっていると、聞いていますが……」

「ああ、ご存じでしたか、アトキンソン氏のブルームーン商会と、我がイザード造船の業務提携が話の発端だったのです、アトキンソン氏が、ご令嬢の嫁ぎ先を探されていると言われて、会って話をする事を強く薦められたのですが……、いや、想像していた方と違ってうれしい誤算でした」

「それはどういった?」

「正直、深窓のご令嬢などというものは、見聞を広める事を求めず、内なる世界を美々しく飾り上げて納得されるような方達ばかりなのかと思っていおりましたので」

 イライザの、アレンの事を、ガブリエルは、大層活き活きと、熱っぽく語り始めた。

「イライザ嬢は、船に対しても興味をお持ちで、よく勉強もされている、お父上が商船を持っていらっしゃるからかもしれませんが、いいや、ご実家の事業について、あのように精通されている女性はめずらしいのです」

 アレンは、実際はブルームーン商会の社員であり、幼い頃から船には並々ならぬ興味も持っていた。いわば進水式のあれは、アレンの地が透けてしまったわけだが、ガブリエルは、それをとても好ましく思っているようだった。

「レディ・クリフトンのように、記者を生業とされている方は、男女問わず、好奇心旺盛にして、知識の探求に貪欲でいらっしゃる、しかし、彼女は『それ』を、ごく普通にされている、世間一般から見れば、少々変わり者ととられるかもしれませんが、私は、彼女のああしたところに強く惹かれます」

 自分だって、と、思い始めていたイライザは、思いがけず釘をさされた形になり、次の言葉を発する事ができなかった。

 いや、自分は、男によく見られたいが為に記者になったのでは無い。先ほどガブリエル自身がそう言っていたように、自身の好奇心、探究心を満たす為に、一生の仕事として決めたのだ。

 すでにそれを生業としている以上、イライザが成すのは『記事』として、形に成って初めて評価されるものだ。

 今更、その姿勢に対して、賞賛が欲しいわけでは無いのだ。

 そう、自分に思い聞かせながら、イライザは、女として求められている、ブルームーン商会令嬢『イライザ』と、職業人『イザベラ』のわずかな齟齬に少しばかりのいらだちを感じ始めていた。
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