混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
9)アレンとヘンリー
 最初に、少々のケチはついてしまったものの、晩餐そのものはつつがなく終わった。

 キャビンに無事戻れたアレンとイライザは、疲労困憊の体で、着替えもせずにベッドに倒れこんだ。

「……食べた気が、しない」

 アレンがつぶやくと、イライザも同意した。イザード造船社長といえば、晩餐会のいわば主役で、ひっきりなしに挨拶に来る者がおり、そのたびに挨拶や、会話を求められて、食事をしている時間は無かったのだ。

「……そう、ね」

 イライザが同意すると、アレンが異を唱えた。

「イライザ、けっこう食べてたでしょ! 僕、見てたよ! お肉とか! お肉とか! お肉とか!」

「だって、余ったらもったいないじゃない」

「まさか、僕の分も食べたの?! ひどい! この、肉食獣人!」

「人聞きの悪い事言わないでよ、そんな、食べて……た、かな?」

「いやしんぼ! イライザのいやしんぼ!」

 そうなると、もう、幼なじみの気安さから、ケンカも一気に子供じみてくる。

 ノックの音に、あわてて、イライザが指をたてると、声がした。

「お嬢さんがた、夜分遅くに申し訳ないが、今、いいかい?」

 ガブリエルの声だった。
< 28 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop