混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 室内の、重苦しく、気まずい沈黙を、打ち破ったのはイライザ本人だった。

「どなたとも結婚する気は無い、と、申し上げました」

 父からもアレンからも、続く言葉が出ない事に業を煮やしたイライザは、念を押すように、同じ言葉を繰り返した。

「そんな事が許されると思っているのか、イライザ、お前は俺の一人娘。ブルームーン商会の跡取りなんだぞ」

「跡取りって、父上が初代なんですよ? 王侯貴族じゃあるまいし、商会の二代目に血縁は不要でしょう? 幸いにして、そちらのアレンを初め、商会内には有能な人材が揃っています、何も不詳の娘を跡取りに据えなくても、最も有能な部下が跡を継ぐのが順当なのでは?」

「ならば、その、有能な部下と、娘のお前の婚姻をもって絆を強めたいと思うのは父のわがままか?」

「わがままですね」

 ピシャリ、と、イライザは容赦が無い。

 イライザにとっては、己の人生がかかっている、そう簡単に引き下がるわけにはいかないのだ。

 新聞社の下働きから御用聞き、夜討朝駆けにもめげず、『男並に』、いや、『男以上に』がむしゃらに働き続けて、ようやく得たチャンスだった。

 船で世界を巡り、その詳細を克明に文章に写しとり、旅行記として出版するという仕事は、世界を見て回りたいという、かねてからの夢でもある。

 あきらめるわけにはいかないのだ。
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