混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 青い不死鳥号に乗船する前日、アレンは叔父であり、雇用主であるヘンリーと話をしていた。イライザと共に乗船するという事は了承済みだったが、女装してイライザの身代わりになる事までは話していない。

「お前はそれでいいのか、アレン」

 ヘンリーは娘に対するよりも丁重にアレンに尋ねた。ヘンリーにとって、打てば響くほどに大げさに反応する娘、イライザの方が、話はしやすい。

 アレンは、有能な部下であり、出来のよい甥っ子だが、成人して以降、叔父といえど雇い主の前では柔らかな表情を極力崩さず、快、不快の判別が難しい。

 部下の機嫌をとる必要は無いのだが、娘のお守りをしてくれる甥っ子に対して、ヘンリーは少し弱い。

「いいのか? とは? 社長令嬢と結婚して跡目を継ぐ線が消えた事ですか? それとも、じゃじゃ馬娘のお目付け役として長旅に出なくてはならないからですか?」

 アレンは、特に嫌味を込めるでなく、思うところを素直に口にしただけだが、後ろ暗いところのあるヘンリーは、遠回しに揶揄されているような気持ちになってどうにも落ち着かない。

「まあ、両方……だな」

「僕が答える前に社長、僕からも質問させて下さい」

 ヘンリーは着席し、アレンは立っている。その場に第三者はいないが、二人の関係を知らないものが一見すれば、どう見ても、ヘンリーの立場の方が上だ。しかし、アレンはひるまない。

「今回の件、悪くない縁談だと思っています、第一社長はイライザに話す前に僕に相談してくれたじゃないですか、普通逆だと思うんですが……、まあ、その話は置いておくとして、我がブルームーン商会は、政略結婚を必要とするほどに運用が傾いているようには思えません、造船会社は一社ではないですし、うちは海運が主です、旅客船に力を入れて、物をのせるより、人をのせる事が主になろうとしている、イザード造船と組む事で利はあるんですか」

 アレンは、一息にまくし立てた。

 ヘンリーは、少しあせった顔で、探るようにアレンを見た。

「……何か、つかんでいるのか、アレン」

 そう言うヘンリーは何かいいたそうな顔をしている、そういう意味でヘンリーとイライザはとてもよく似た親子だった。

 もしかしたら、雇い主であるヘンリーとイライザは似すぎていて、女性として見ることができないのだろうか、と、まったく関係ない事をアレンは考えていた。

「いえ? ちなみに今回のお話はどこからかの口利きで?」

 アレンの問いかけに、どこか全てを話てしまいたいと思っていたのか、すんなりとヘンリーは口を開いた。
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