混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 つきあいの長さと距離感において、イライザを恋愛対象として考えた事はないけれど、イライザを妻にしたいという男に対して、並々ならない感情を持つことが予想できるアレンとしては、今の状況は少し複雑ではあった。

 素直に、イライザがガブリエルに惹かれているだけならまだいい。

 しかし、実際は違うのでは無いか。
 それを確かめるためにも、アレンはイライザの近くを離れないわけにはいかないのだ。

「社長、あんたと娘は本当によく似てる」

 バスルームの方で、一人悪戦苦闘しているイライザを横目に、アレンはひとりごちた。

「……手伝おうか?」

 服を脱ぐのを手伝うなどと、妙齢の男女の間で、しかも、女の方が肌を見せるという事は、一般的には避けなくてはならないのだろう。

 しかし、イライザは違った。

「……お願い」

 イライザに、アレンを誘惑してやろうなどという目論見は全く存在しない。あるとしたら、年頃の娘が男に肌を見せるのははしたない事だという常識程度はわきまえているというだけ。

 アレンがイライザの事を妹のように思っているように、イライザにとってもアレンは身内同然で、どうかすると、兄よりは姉に近い存在だった。

「ありがとう、ごめんね」

 申し訳ない様子でイライザが言うと、

「さっき謝っただろ? 必要以上にあやまらなくていいよ」

 最低限、手の届かないところだけ手伝って、アレンはバスルームを出た。

 ランドリーバッグに入れておけば、翌朝には客室係が回収に来るだろう、くつろいだ様子で(しかし、念の為女性用のネグリジェで)、アレンはベッドに潜り込み、出港以降の出来事をしたため始めた。

 イライザが文章を書くようになったのはアレンの影響もある。時にイライザの文章を見てやるアレンの文章は迷いなく、出来事を綴っていった。
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