混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
「彼女の記事が、署名入りになってから間もないのですが、実は署名が入る前から気になっていたんです」

 アレンは驚いていた。サンシャイン・ワールド誌は、ゴシップ誌、と、まではいかないが、どちらかといえば物見高い読み物がメインで、一流の財界人必読のものとは言いがたい。 もちろん、イザベラ・クリフトンこと、イライザ・アトキンソンの父や、イザベラ・クリフトンがイライザの筆名だという事を知っているブルームーン商会の者は読んではいるが、飛ぶ鳥を落とす勢いと言われる、イザード造船社長が読むには、少々低俗ではある。

「……おかしいですか?」

 照れたように笑う、ガブリエルは、本当に魅力的で、自分が女だったら、いちころだろうなあ、と、アレンは思いながら、どう答えかいいかわからず、曖昧な笑顔を作った。

「初めて読んだのは、港の人達の記事でした、肉体労働の男達や、それを待つ女達の……、辛い事も、楽しい事も、とても素直な筆致で、飾りの無い、けれど、言葉のひとつひとつが、生き生きとして、目に浮かぶような記事でした」

 そう言いながら、ガブリエルは遠い目をして、初めてその記事を読んだ時の驚きや喜びを思い出して反芻しているようだった。

 そして、それは、確かにイライザが書いた記事なのだという事を、アレンは知っていた。

 初めて掲載されたその記事を、大切そうに持ってきて見せてくれた日の事を、アレンもまた、思い出していた。
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