混戦クルーズ！ 造船王は求婚相手を逃さない

「署名の入っていない記事だったのに、どうしてイラ、イザベラだとわかったんですか？」

　アレンは、試すような気持ちでガブリエルに聞いてみた。

「……そうですね、視点、っていうのかな、取材対象に寄り添っていて、個人の考えにすり替えず、かと言って、彼女自身の主張はきちんと盛り込まれている、というか、……うまく言葉にできませんが」

　苦笑しながら、ガブリエルは言って、さらに照れたように続けた。

「彼女の視線から、この船がどう捕らえられるのか、描かれるのか、読んでみたいと、思ってしまいまして……」

　ガブリエルは、『船』と、言い換えたが、本心としては、『自分』を見て、描いて欲しいと思ったんではないか、と、アレンは思った。

　もしかして、ガブリエルとイライザ（本人）は、相思相愛なのでは……と、アレンは思ったが、では、なにゆえに、ブルームーン商会の一人娘との縁談、などという話が出たのだろうとも思った。

　そして、嫌な考えに思い至ってしまった。ガブリエルが、イザベラ（イライザの筆名）の文章に惹かれ、彼女自身に惹かれていたとしても、それは、彼個人の考えであって、企業人としての彼、実業家、ガブリエル・イザードとしては、イザード造船の為に、政略結婚を進めようとしているのでは無いか。と。