混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 ブルームーン商会、社長、ヘンリー・アトキンソンは、男やもめであるが、後添いは娶らなかった。愛する妻は、イライザの母一人、という事だが、かといって、女っけが全く無いかといえば嘘になる。

 各地の港を周る、海運会社の社長であるヘンリーには、港港に女が、と、まではいかないものの、ベッドを共にする割りきった女友達は複数存在している。彼女らを受け入れて、支えるだけの財力が彼には備わっており、また、各地に癒やしを求める社長を、アレンは否定しない。

 だが、イライザがそのように扱われるとなると話は別だ。複数の愛人を持つことは否定しないが、慈しみ、大切にしている、妹のような、娘のようなイライザが、ないがしろにされるのは、どうにも許せないような気がした。

 もちろん、それを決めるのはイライザ自身だし、実際、幼馴染の従兄弟にすぎない自分に、何か言う権利が無いことは、理解していたが。

 そう考えると、アレンは、今、不自由な女装を強いられる事にも耐えられそうな気持ちになり、背筋を伸ばした。

 見極めてやる。

 目を開いて、頭のてっぺんからつま先まで、舐め回すようにアレンはガブリエルを見た。

 その、紳士然とした見かけでは無く、男としての本性を。

「……私の顔に何か?」

「見とれていました」

 今度は、曖昧な微笑みでは無く、はっきり、にっこりと笑って、イライザ(のふりをしたアレン)は、ガブリエルに対峙した。

 それは、まるで挑戦状のようでもあった。

「港に着くのが楽しみですね」

 最初の寄港地は南の島。女装しているアレンは、水着にはなれないが、南国の開放的な雰囲気に流されて、ガブリエルが隙を見せたならば、どんな手を使っても、この縁談を壊してみせる。

 アレンは、大いに含むところのある様子の笑みを見せた。
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