混戦クルーズ！ 造船王は求婚相手を逃さない

　今回の依頼は、イライザの筆名『イザベラ・クリフトン』宛に名指しで来た。あの時を、イライザはきっと忘れない。

　イライザが常勤するサンシャイン・ワールド誌は、硬派な新聞では無く、暴露記事やスキャンダルを取り扱う、低俗とみなされる部類の新聞であったが、『彼』はそんなイライザに、正しくは、筆名『イライザ・クリフトン』に対して執筆依頼を申し出てくれた。

　ガブリエル・イザード、イザード造船の若き社長である彼が、やって来た日の事を、イライザは思い出す。

「あなたが、レディ・イザベラ・クリフトンですか」

　ガブリエル・イザードはイザベラの熱心な読者だった。

「……ずっと、あなたの記事に励まされていました、お会いできてうれしいです」

　長身の浅黒い肌、黒い髪の、精悍な青年は、まるで少年のように瞳を輝かせてそう言った。

　イライザは、自分の書いたものを、仕事を見てくれている人がいたという事に感動を覚えた。そしてそれが、新造船でのクルーズに同行し、旅行記を書いて欲しいという依頼に繋がったのだと思うと、興奮で踊り出しそうだった。