混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
11)転がる子豚亭
 ホテルは港からそう離れた場所では無かった。港を一望できる高級ホテルを、イザード造船でまとめて押さえたそうで、ホテル内をうろつく人々は、船の中でも見かけた人たちばかりだった。

 イライザは、さっそく探検と称して港へ出て行った。

 ララティナは、大海を隔てているとはいえ、クイント領内であり、駐留軍もいる。治安は比較的よいのだった。

 石造りの高い塔に、青い空。

 古風な町並みと、活気のある人たち。

 港町の活気は、イライザにも慣れ親しんだものだったが、行き交う人たちの人種、聞こえてくる言葉は多岐にわたり、刺激的だった。

 ふいに、雑踏の中に、見知った顔を見かけて、イライザは足を止めた。

 それは、周囲には不似合いな帽子をかぶり、身なりを隠しているようだったが、ガブリエル・イザードに、とても良く似ていた。

 周囲に気づかれないようにしているが、イライザにはわかってしまった。

 常にきにかけているからか、イライザは、なぜ一目でそれがガブリエルなのかわかったかという事の理由に、名前をつけるのを躊躇った。

 だって、私は記者だもの、人の顔を覚えるのは記者の必須能力。これは、わかって当然の事なのだ、と、誰に尋ねられてもいないのに、イライザは自分自身に言い訳をした。
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