混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 幸いにして、人が多く、ガブリエルの後をついていくイライザの姿は、よほど注意して背後を確かめない限り、気づかれそうにない。

 さらに、ガブリエル自身も、周囲を確かめながら歩いているようでは無い。誰かに後をつけられているなどと、予想もしていないようだ。

 見失わないように、前方を進むガブリエルに合わせていた歩調が、急に止まった。あわてて路地に入り、様子をうかがうと、ガブリエルが立ち止まったのは、一軒の食堂だった。

 そこは、およそイザード造船の社長が出入りするような高級そうな店構えでは無く、それこそ、先ほどアレンが言っていた、『歌う人魚亭』のような。

 今でこそ、ブルームーン商会は、海運会社としてそれなりの規模になっているが、イライザが幼い頃は船乗り集団にすぎず、今は幹部として収まっている者達も、荒くれ、やくざ者崩れが多い。だからこそ、そうした者達は今でも上品な料理屋よりも、こういった大衆向けの食堂を好む。
< 45 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop