混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 そういえば、と、ふと、イライザも考えた。イザード造船もまた、頭角を示したのは最近の事だったのだと。

 造船会社としてのイザード造船は古く、国内最古の三つの造船会社よりやや遅れてはいるものの、国内でも五本の指に入るほどの老舗だ。

 イザード造船は、元々、軍船を作っている会社だった。

 それが、ガブリエルの代になって、客船に力を入れるようになってきた。

 世の中の趨勢がそうさせるのか、彼自身の手腕なのか、イライザにはわからなかったが、戦争の為では無く、旅の為の船、しかも、長期旅客船となれば、イライザのような者達にも、長旅が可能になる。

 イライザはずっとそれを好意的に考えていたが、これには何か、隠された事情、もしくは、何らかの深慮遠望が隠れているのでは無いか、と、ふと思い立った。

 社長が一目を避けるようにして大衆食堂に来ているだけで、そこまで妄想するのはやりすぎだ、と、イライザはかぶりを振った。

 だいたい、イライザも、アレンも、父のヘンリーですら、こうした大衆食堂は好んでいく。思い出の料理、あるいは、ここでしか食べられないような名物があるのかもしれない
と、イライザは自分の妄想を打ち消した。

 食べ物に思いを巡らせているうちに、イライザも急に空腹をおぼえ、ガブリエルの後について、店の中に入ることにした。

 特別やましい事は無い。偶然ガブリエルを見かけて、空腹を感じたから食堂に入った。それだけの事だ。
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