混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 夢の階段へ、やっと辿りつけた今、『結婚』などで唐突に方向転換を強いられるなど堪らなかった。

 イライザは、感情的にほえかかるような真似はしないが、きっぱりとした口調で続ける。

「どうして血縁で繋ごうとするんですか、お父様らしくありません、私の知っているお父様は、もっと合理的な方のはずです」

 真っ直ぐに主張しても、考えを改めないだろうとふんで、イライザは、今度は父を持ち上げる事で、意志を替えさせようと誘導するように言ってみた。

 ……しかし、効き目は無かった。

「もし、それほどまでに血統にこだわりたいと言うのなら、私は止めません、どうか後添いを娶って下さい。お父様はまだ若いんです、他にきょうだいができれば、私にこだわる必要は無いでしょう」

 話が、自分の再婚についてまで及ぶと、ヘンリーはさすがに表情を暗くして、深々とため息をついた。

「俺は、生涯お前の母親を愛している、今までも、これからも」

 ああ、まただ、と、イライザは少しばかりうんざりした。けれど、母が父を愛していた事は確かだったのだと実感し、どことなくむずかゆいような、いたたまれないような気持ちにもなった。

 父が母に操をたてる事は立派だと思うが、だからといって娘に結婚を強いるのは許されるべきでは無い。

 イライザは、心を落ち着かせるために、小さくため息をついてから言った。

「海の男のそうした言葉はあまり信用に足りませんね、港ごとに現地妻がいたっておかしくない昨今、若くしてやもめになったお父様が、これまで女っけないしにいられたとは到底思えないんですが」

 父が、母を変わらずに愛している事はわかっていた。だが、サンシャイン・ワールド誌に席を置き、男女の機微を見続けていたイライザの、それもまた、素直な気持ちだった。

 死んだ妻を愛し続ける事と、別の女性と肉体関係をもつ事を、別の事象として割り切る事が、男性はできるのだ。

 父は、ロマンチストでもあるが、リアリストでもある。そうした父の気質を、娘であるイライザは熟知していた。
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