混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 男の一人が、女将の頬を張り手で払ったのだ。男の膂力が強いせいか、女将は横に引き倒され、床に倒れこんだ。

 かける言葉もあればこそ、誰もが息を飲む一拍を置いたが、イライザの動きはそのタメを必要としなかった。

 女将が運んでいたジョッキ、一度テーブルに置かれ、手のついていないそれらを掴んで、女将の横をはった男に浴びせかけた。

「女ぁ! 何をするかッ!」

 男は、今度はいきなり頬をはりはしなかったが、イライザの胸ぐらをつかんで引き寄せた。既に酔っているのか、男の吐く息には、酒の匂いがした。

 自分自身もかなり酔っているが、人の酒臭い息を不快に感じたイライザは思わず顔を歪めた。

「話を聞かずに先に手を出す相手には、言葉が通じないのかと思ったので」

 イライザは、一息に言えたつもりになっていたが、語尾や少しろれつがまわっておらず、思ったので、ではなく、思ったのれ、と、なってはいたが、男を挑発するには充分だったようだ。

「ほう、なら、お前にもわかるように、身体でわからせてやる」

 男の手が、イライザを殴るため振り上げられたその時、手が止まった。
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