混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 素直に、好意的な笑顔にも見えるし、達観し、女として終わっていると切り捨てられたようにも見える。

 いや、そもそも、自分はガブリエルに女として見て欲しいと思っているんだろうか。

 わずか一瞬の間に、イライザの顔は青くなり、白くなり、最後にほんのり桃色になっていた。

「とりあえず、お水、ですかね」

 勢いよくガブリエルは立ち上がり、部屋を出て行った。

 イライザは、次にあのドアが開く時には、きちんと、理知的なイザベラ・クリフトンとしての体裁を整えるべく、着替えを、あるいは、昨晩脱いだか脱がされたかした、自身の吐瀉物まみれのドレスを探した。

 だが、残念な事に、どれほど鼻をひくつかせようと、北天の二重星を見分けるほどの視力をもってしても、イライザのドレスは見つからなかった。

 イライザの目論見は瓦解し、もう、一生このベッドから抜け出せないかも、という不毛な決意に打ちひしがれていると、今度はノックの音の後に扉が開いた。

「お嬢さん、大丈夫かい?」

 心配そうな顔で、ピッチャーとカップを持って現れたのは、『転がる子豚亭』の女将だった。腫れ上がった頬は、手当がほどこされていたが、顔に巻かれた包帯は痛々しく、イライザはさっきまでの一人芝居を忘れて、女将に言った。

「それは、こちらのセリフです、その傷……」

「ああ、こんなの、港じゃしょっちゅうさ」

 気にしないでおくれ、と、言いながら、女将はコップにピッチャーから水を注いで、イライザに手渡した。
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