混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
イライザが、無邪気に、お父様のお嫁さんになる、と、言っていた頃は遠い昔の事なのだという事を、父は知るべきだ。
そして、そのように割り切る事ができる部分は、確かに父譲りのイライザの長所なのだという事も。
ヘンリーはヘンリーで、自分と妻の血をひくイライザを跡目にすえる事こそ、妻への愛の証と考えているようなふしがある。あくまでも正妻であり、伴侶は死んだ妻である事の証左としたいのだろうが、まきこまれるのはゴメンだ。
そう、言ってしまえば、父、ヘンリーは納得するだろうか、と、イライザは父との会話の最中に考える。
いや、と、心の中でイライザは舌打ちをした。父は、歳のわりには進歩的な考えをもっているが、それでも、女が、女だてらに、と、深く考えずに口にしてしまう程度には、イライザを一人前の大人として遇してはくれない。
以前は、むきになって言い返した事もあった。
そこでまた、「すれっからし」なイライザが顔を出す。
人の考えを変える事は難しい。
人は、歳を経て、長く生きれば生きるほど、自分が生き延び続けている恩恵は、自分の力で勝ち得たものだと思い、傲慢になる。
ヘンリーのような、世間一般で言うところの成功者ならばなおのこと。
「……わかりました、お父様」
イライザは、本心を押し殺して、笑顔を作った。
それは、男ばかりの職場で身につけたイライザの処世術の一つだ。
はっきりと、わかる形で、男を言い負かす事はできない事を、イライザはよく知っていた。
ヘンリーは、職業人としての娘を甘く見ていた。
イライザは、幼い頃はたいそうなおてんば娘だと知っていたが、成長と共に、そうした部分はなりをひそめ、レディとしての慎みを身につけたのだと理解していた。
しかし理解は誤解だった。
イライザが、意図的に、狼が牙を隠すがごとく、犬のように従順なふりをしているだけだという事を。
そして、そのように割り切る事ができる部分は、確かに父譲りのイライザの長所なのだという事も。
ヘンリーはヘンリーで、自分と妻の血をひくイライザを跡目にすえる事こそ、妻への愛の証と考えているようなふしがある。あくまでも正妻であり、伴侶は死んだ妻である事の証左としたいのだろうが、まきこまれるのはゴメンだ。
そう、言ってしまえば、父、ヘンリーは納得するだろうか、と、イライザは父との会話の最中に考える。
いや、と、心の中でイライザは舌打ちをした。父は、歳のわりには進歩的な考えをもっているが、それでも、女が、女だてらに、と、深く考えずに口にしてしまう程度には、イライザを一人前の大人として遇してはくれない。
以前は、むきになって言い返した事もあった。
そこでまた、「すれっからし」なイライザが顔を出す。
人の考えを変える事は難しい。
人は、歳を経て、長く生きれば生きるほど、自分が生き延び続けている恩恵は、自分の力で勝ち得たものだと思い、傲慢になる。
ヘンリーのような、世間一般で言うところの成功者ならばなおのこと。
「……わかりました、お父様」
イライザは、本心を押し殺して、笑顔を作った。
それは、男ばかりの職場で身につけたイライザの処世術の一つだ。
はっきりと、わかる形で、男を言い負かす事はできない事を、イライザはよく知っていた。
ヘンリーは、職業人としての娘を甘く見ていた。
イライザは、幼い頃はたいそうなおてんば娘だと知っていたが、成長と共に、そうした部分はなりをひそめ、レディとしての慎みを身につけたのだと理解していた。
しかし理解は誤解だった。
イライザが、意図的に、狼が牙を隠すがごとく、犬のように従順なふりをしているだけだという事を。