混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 イライザは、自分が最初に働いた無礼以上の何かを、ガブリエルに対して行ったのだと、青ざめ、どんな非礼をしたのか、頭の片隅にでも記憶が残っていないか、再び自分の頭をかかえ、数発、ぽかぽかと拳で殴りつけてみたりもした。

「何を……したの? 私ッ……」

 わずかな断片も思い浮かぶ事は無い。イライザの記憶は、吐き戻した時点でふっつりと途切れ、次の記憶はベッドの上からだった。夢も見ていなかった。イライザの感覚としては、昨夜の出来事は、つい先ほどの出来事のようだ。

 イライザは、特別酒が好きというわけではないが、正体を失うような酔い方をしたのは今回が初めてだった。

 ブルームーン商会の男達が、時折羽目を外しすぎて、港の飲み屋から賠償を求められるような事態になっているという事は知っていて、けしからん事だとすら思っていたというのに……。

 イライザは、テーブルに顔をつっぷし、しばし考えた後、深いため息をついてから、

「うううううう」

 と、うめくような声をあげた。

 このままどこかへ埋めて欲しい……。

 ギリギリと歯ぎしりをしながら、イライザは握った拳に力を込めた。

 ふいに、イライザは冷静になった。

 自分が、ここまで、動揺するのは何故だろうか。

 ガブリエル・イザード氏は、今回の仕事の依頼人にしてスポンサーである。自分は記者として、いや、それ以前に、自立した一人の大人として、あるまじき醜態をさらしてしまった。

 そうだ、だからだ、あくまでも、依頼人と記者として、大人としての対応ができていなかったからだ、と、イライザはふと浮かんだ心の動きを、以降湧いて出てくる事が無いように、キッチリと蓋をして、重しをのせるように声に出して言った。

「そう、私は、一人の記者として、己のしでかした事に責任をとらなくては」

 言い切ったところで、女将とガブリエルが、朝食を運んでやってきた。
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