混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 女将と店主は、仕込みがあるから、と、そそくさと持ち場へ戻り、関わりたくないという姿勢を全力で訴えていた。

「ア、イライザ、あのね、これは……」

 思わずアレン、と、呼びかけそうになったのをあわてて訂正して、イライザがとりなそうとする。

「イ、イザベラは黙ってて、私はイザードさんに言っているんだからッ」

 感情的になっているイライザ(の、ふりをしたアレン)を、必死で止めようと、イライザが間に立ちはだかる。

「私が悪いの、私が、調子にのって酔いつぶれてしまったから……」

 しかし、それは悪い意味でイライザ(のふりをしたアレン)を刺激した。

「酔いつぶれた……、誰に? 誰に飲まされた!」

 語尾がすっかり男性のそれに戻っている事に気づかず、アレンがイライザに迫る。

「レディ・アトキンソン」

 イライザは、自分の背後にいたガブリエルが、自分を押しのけて、アレンの方へ進むのを見た。

「……申し訳ありません、今回の縁談を、白紙にしてはいただけないでしょうか」

「どういう意味でしょう」

 アレンの瞳は完全にすわっている、イライザは、ここまで怒っているアレンを初めて見た、と、思った。アレンはもう、どう考えても女には見えないのだけれど、アレン=イライザという先入観がある為か、徹夜で憔悴している様子からか、今のところ、ガブリエルは違和感に気づいていないようだった。
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