混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 日が、天高く昇る頃には、イライザとアレンは、ガブリエルによって、仕立屋へ連れて行かれた。

「……今から仕立てるのでは時間が」

 と、一秒でも早くガブリエルと距離を置きたいイライザとアレンが断ろうとしたが、

「既製服もあるのです、……まあ、私としては、頭からつま先まで、全て見立てたいところではありますが、それはまた、次の港に着いてからの楽しみという事で」

 笑顔ながら押しが強いのは、さすがイザード造船社長といったところか。鉄鋼に油、機械ばかりを相手にしていると思われたガブリエルは、卒のない紳士であった。

 連れて行かれた仕立屋で、イライザは、それこそ、頭からつま先まで、揃えられ、無言で押し着せられるドレスに着替えさせられた。

 しかし、それは、決して華美なものではなく、すっきりとして動きやすく、エレガントなものだった。

「すみませんね、僕にまで」

 アレンがぶつくさ言うと、しかし、不本意な女装から解放されたせいか、身軽そうに姿見の中の自分を確かめた。

「……若干、着丈を詰める必要はありましたが」

 そこは、ガブリエル御用達の店らしく、ガブリエルの為に仕立てられていたものを、アレンに気前よく譲ってくれたものだった。

 もちろん、

「ああ、上背はあまり変わらないんですね」

 と、暗に、足は自分の方が長いのだという事を印象づける事を忘れなかったけれども。

「そうですね、ウエストは、いくらかだぶついているようですね」

「ああ、さすが、女性のドレスが似合う方は、筋肉も少なくていらっしゃるようで」

 と、旧年来の知己のような打ち解けぶりを見せていた。
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