混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
14)ララティナの塔
 ララティナ港を見下ろす、ララティナの塔。

 元々、軍港としての機能を備えたララティナ港の、そこは見張り台でもあった。イライザはそこで、思いがけない再会を果たした。

 塔を取り囲む儀仗兵の先頭に、りりしい将校が一人立っていた。

 屈強な兵士達に囲まれた中では、幾分華奢であったが、一本筋が通ったように姿勢がよく、何より号令する声がよく通るものだった。

 将校が、イライザの姿に気づいたように、練兵が一区切りついたところで向かってきた。

 軍人に知り合いはいないはず、と、イライザがきょろきょろと辺りを見回すと、将校はイライザの目の前に立った。

「クリフトン女史、昨夜はどうも」

 そう言われて、もしやイライザが酒を浴びせかけた軍人かと思い、身構えると、将校は微笑んで言った。

「いやだなあ、忘れちゃった? 私だよ、リリ」

 昨日垂らしていた長い髪をひっつめて、軍帽を被っている為、わからなかったが、それは昨夜、ガブリエルと共にいたリリだった。

 イライザは驚き、昨晩の行動の意味を考えなおしていた。

 イライザは、リリの事をガブリエルの恋人、もしくは、娼婦と勘違いしていた。リリの方は、イザベラ・クリフトンの記事も読んでくてていて、イライザ自身を気にかけてくれていたというのに。

 しかし、今更その誤解を自分から言うことがはばかられて、イライザは続く言葉を言うことができなかった。

「私を、商売女だと思ってた?」

 リリは屈託なく笑い、イライザをいたわるように続けた。

「あのかっこうの方が、港にいるには都合がいいんだ、相手が女だと、油断して口が軽くなる者も多いからね、よければ、塔を案内しよう」

「いいんですか?」

 イライザは恥じ入るばかりだったが、リリからの提案は素直にうれしかった。

「私も、イザベラ・クリフトンの旅行記の登場人物の一人に加えてくれるなら、だけどね」

 そう言って片目をつむってみせるリリの笑顔はとても魅力的で、女のイライザから見てもドキリとする物があった。
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